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スペシャルトーク

第5回 羽海野チカ×志村貴子

PROFILE

羽海野チカ©羽海野チカ

羽海野チカプロフィール

羽海野チカ(うみの・ちか)●東京都葛飾区生まれ。グッズデザイナー、イラストレーターを経て、2000年『ハチミツとクローバー』でマンガ家としてデビュー。大ヒットした同作は、アニメ化(監督/カサヰケンイチ)、映画化、テレビドラマ化もされた。また2007年からは新作『3月のライオン』(白泉社)の連載をスタートし、大きな反響を呼んでいる。
志村貴子©志村貴子

志村貴子プロフィール

志村貴子(しむら・たかこ)●1973年生まれ。1997年に『ぼくは、おんなのこ』でデビュー。主な著書に『青い花』『どうにかなる日々』(ともに太田出版)『敷居の住人』『放浪息子』(ともにエンターブレイン)『ラヴ・バズ』(少年画報社)など。現在「月刊コミック・ビーム」にて『放浪息子』、「マンガ・エロティクス・エフ」にて『青い花』を連載中。

取材・文/宮昌太朗

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(第5回 羽海野チカ×志村貴子【後編】)  【前編】はこちらから  【中編】はこちらから

――えー、そろそろアニメ版の話題に移らせてもらってもいいですか? 実はこの対談は、第1話の放映前に収録しているんですけども、羽海野さんは『青い花』アニメ化の話を聞いて、どんなふうに思われましたか?

羽海野 まず最初に、「まだ連載の途中だけど、どの辺までやるのかな?」と(笑)。あとは「アニメで派手な色になっちゃったらどうしよう」とは思ったんですけど、でも監督がカサヰさんだと聞いて「ああ、大丈夫だ」って思ったんですよ。

――カサヰさんは、アニメ『ハチミツとクローバー』の監督でもありますね。

羽海野 しかも制作スタジオがJ.C.STAFFさんだし、『青い花』の表紙の――あの水彩っぽい雰囲気もきっとちゃんと表現してもらえるだろうし。だから「あ、平気だな」って思ったんです。
志村: 前に、羽海野さんが「『ハチクロ』のアニメが始まったときに、第1話を見て泣いちゃった」ってあとがきに書かれてたんですけど、最初にアニメの話をいただいたときに、そのエピソードを思い出したんです。すごく素敵なエピソードだったんで。で、私は第1話どころの話じゃなくて、その前の、トレーラーの段階で泣いちゃって(笑)。
羽海野 あれはなんか、不思議な気持ちですよね。自分の描いたものが、1度、誰かの頭のなかを通って、その人の手から出てきたんだって思うだけで......。
志村: そうそう、そうなんです!
羽海野 それだけで涙が出てくるんですよ。私、ふみちゃんの髪の毛が真っ黒なところが大好きなんですよ。でも、アニメって、真っ黒が使えないんですよね、ハイライトとシャドウを入れる関係で。『ハチクロ』のときも、森田さんの髪の毛を真っ黒にしたかったけど、できなくて。でも、「ふみちゃんも黒髪じゃなくなっちゃうんだな」と思ってたんですけど、今見たら、きれいなグレーだったんで、「これはこれでまた、なんとかわいらしい!」と思いました(笑)。

――羽海野さんから見て、カサヰ監督ってどんな方でしたか?

羽海野 私、カサヰさんと神山(健治)さんしか、アニメの監督を直接は存じ上げないんですけど、あの人たちはきっと、かわいいのが商売なんだなって思います。なんかすごくチャーミングなんですよ。そういう意味で、カサヰさんはすっごいキュートな人。

――そのキュートさというのは、どういうところなんでしょう?

羽海野 「この人のためなら」ってみんなひと肌脱ぎたくなるような、そういうチャーミングさ。カサヰさんは無理強いもしないし、激しく主張もしないんだけど、そういう雰囲気で現場が回っていく感じがします。押しつけたり言い切ったりしないんだけど、それが逆に、いい感じで回っていくというか。『ハチクロ』のアフレコでも、いつも椅子の上に(『DEATH NOTE』の)Lみたいに裸足で座ってて(笑)。
志村: ああ! あとがきで描かれてましたよね。
羽海野 で、「ふんふんふん、いいんじゃないかな」みたいな。あの雰囲気が画面に出るんですよ。これは面白いタイプの人だなって。しかも、音響監督の(明田川)仁さんとのやり取りが、なんかこう、すごくいいんですよ(笑)。仁さんとカサヰさんの会話を盗み聞くためにスタジオに行ってたくらいで。
志村: 私も1回目のアフレコにお邪魔したんですけど、すごく楽しかったです。明田川さんってすごく器用な方で、声優さんに「ここはこういうふうにしゃべってほしい」って指示を出すんですけど、それを見ながら監督が「もう仁がやっちゃいなよ」みたいな(笑)。
羽海野 そうそう! カサヰさんがこうやってうなずきながら「やっちゃえばいいじゃん!」って(笑)。で、仁さんがくるっと振り返って、カサヰさんを見て、ニヤーッと見詰め合うんですよね。「いいんじゃない?」とか。あれを見るのは楽しい時間ですよ?
志村: すごくいいんですよね、ふたりの掛け合いが。ああ、もっとアフレコ現場に行きたい。
羽海野 カサヰさんって、わりと誰とでも仲良くなる感じじゃないんですけど、仁さんにはよく慣れてるので(笑)。

――よく慣れてるって(笑)。

羽海野 あと、カサヰさんたちは無理に話をねじらないで、ちゃんと原作を尊重してくれる。それに、キャラクター設定の方がとても上手いですよね。「上手い」ってちょっと嫌な言い方ですけど、ちゃんと原作の味を再現されてて。

――音地正行さんですね。『ARIA』なんかもやられてるアニメーターの方です。

志村: アニメーターって、すごいなって思いますよね。全然違う絵を描かれたりもするじゃないですか。私、『おジャ魔女どれみ』シリーズがすごい好きで見てたんですけど、その同じ作画監督さんが『蟲師』もやられてて。

――馬越嘉彦さんですね。

志村: 「アニメの世界ってすごい!」って思いました。
羽海野 私も『東のエデン』で、森川聡子さんという方にキャラクターデザインを担当していただいたんですけど、私の絵をアニメ用に、動くように翻訳してくれるわけじゃないですか。もうキャラ設定を見たときには「すごーい!」って。
志村: すごいと思いました。
羽海野 アニメ用に直しても、それでも私の絵が残ってる。切り捨てるところと残すところを選ぶ能力が、すごく高いんですよ。しかも、ちゃんと立体になってたりとか。あと、『エデン』だと、森川さんは私の絵にあわせて、脇のキャラクターをデザインされてて、それがまたすごいんです。

――羽海野さんがデザインした感じで、上げてくれますよね。

志村: それで思い出したんですけど、私のところに、臨時で何回か入ってもらったアシスタントの子がいたんですね。私は基本的に、モブシーンの脇キャラも背景の人も、ほとんど自分で描いちゃうんですけど、そのときはまったく余裕がなくて、観客席の一部を彼にお願いしたんですよ。「本当は描きたいけど、うう......」って。で、その人がもともと描いてる絵って、私の絵とはかけ離れてるんですけど、できあがったのを見ると、私が描くようなモブになってたんです。
羽海野 おおーっ。
志村: なんかびっくりしちゃって。
羽海野 でもすごい能力が高いですよね、絵柄を合わせてくれるって。私もすごい切羽詰まってるとうちのチーフの子にモブを描いてもらうんですけど、合わせて描いてくれるのを見ると「すげー」と。
志村: でも羽海野さんのマンガを読んでると、背景とキャラクターが全然ズレてないというか、ちゃんと世界観がありますよね。
羽海野 ありがとうございます。それはもう本当に、すごいアシスタントさんに恵まれてたので......。

――では最後に、そんなアニメの先輩である羽海野さんから、志村さんにアドバイスをお願いします(笑)。

羽海野 やっぱりアニメが始まると、テレビで放映している間、気持ちがそわそわしちゃって、集中力が下がっちゃうんですよ。で、ネームがちょっとふわふわしてしまう。あと、こういう取材とかも増えるし、ペースが乱されてしまいがちなんですけど、それでペースを乱さない。これはよしなが(ふみ)さんに言われたんですけど、「アニメは放映期間が終われば、終わってしまう。でもマンガはずっと残るものだから、あなたはマンガを頑張ればいいのよ」って。
志村: しっかり受け止めます......。
羽海野 と、最後は(よしなが)ふみちゃんからの伝言で締めました(笑)。

2009.8.28 UP

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© 2009 志村貴子・太田出版/青い花製作委員会